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領域概要 / A01 / A02 / A03 / B01

領域概要

合成された分子や無機材料が自己集合・自己組織化することで形成される従来の結晶性材料、液晶性材料、あるいはポリマーなどのバルク材料は、ナノスケールの周期構造・集合構造が単純にマクロスケールまで拡張された構造を有し、多くの場合ナノとマクロを繋ぐメゾスコピック領域(数ナノ〜マイクロメートルスケール)における階層性は存在しません。一方で、多様な分子や高分子が緻密に集合した生体組織においては、当然のように階層構造が制御され、そしてその階層性に由来する驚くべき機能が導き出されています。もし、機能材料分野において、未踏領域であるメゾスコピック領域で階層性を構築し、このスケール領域で躍動する革新的物質を開拓できれば、機能材料分野に大きな変革をもたらすことできるはずです。そのためには、これまでに盛んに研究されてきた精緻なナノ構造構築技術のみならず、それらをさらにメゾスコピック領域まで階層的に組み上げ、機能を引き出すための学理の構築が重要になります。

本学術変革領域では、メゾスコピック領域で階層的に自己集合・自己組織化された材料を「メゾヒエラルキー物質」と定義し、メゾスコピック領域での階層構造構築を目指す超分子化学、メゾヒエラルキー材料創成技術/設計理論、構造可視化技術、共振器強結合によるナノ構造間のエネルギー準位の操作技術、そして構築したメゾヒエラルキー構造が示す特徴的な力学的特性の解析技術を主戦場とする研究者が協働できる場を提供します。多岐にわたる研究分野出身の研究者が協働して本領域を推進することにより、メゾヒエラルキー物質に関する知見を集積し、統合的理解を深めます。これにより、ナノからマクロを繋ぐ学際領域「メゾヒエラルキーの物質科学」を確立し、材料創成における学術変革を起こします。A01では「造形」と「可視化」、A02では「光機能科学」と「光計測」、A03では「刺激応答材料」と「非線形応答」、B01では「理論計算」という4つの研究項目(A01–A03,B01)・7つのグループを柱に研究を進めます。公募研究では、それらを補完する、あるいは新しい発想の研究提案を期待しています。

A01メゾヒエラルキー合成

A01-1メゾヒエラルキー造形

メゾスケール(3〜300 nm)で針金のように自由自在に変形できる一次元ソフトマテリアルを開発することができれば、今まで不可能だった微細な構造を作ったり、微小物体を操作したり、エネルギーや物質を湾曲的に輸送したりできるようになります。メゾスケールで自由自在に湾曲できる一次元素材を作るには、分子の階層的な自己組織化を巧みに制御し、湾曲構造を作り出す「メゾヒエラルキー造形」の技術が必要です。本研究では、研究代表者が実現した階層的湾曲自己組織化技術を更に発展させ、人工核酸やホストゲスト型超分子ポリマーをはじめとする集合体材料に適用することで、未踏物質「メゾヒエラルキー物質」を創製し、これらが作り出す湾曲構造がメゾスケール領域での光・電子物性を探求します。

A01-2メゾヒエラルキーの映像分子科学

「分子設計を工夫しても必ずしも望みの機能をもった材料が得られない」という分子を基盤とした物質科学の課題を解決するためには、分子設計だけでなく、メゾズケール(3〜300 nm)で階層的に展開される分子集合過程の理解も必要です。本研究では、単分子原子分解能時間分解電子顕微鏡法(SMART-EM)や高速原子間力顕微鏡法(HS-AFM)など、最新の「映像分子科学」手法を駆使して、分子からメゾにわたるスケールで、メゾヒエラルキー物質の形成過程を解明することを目指します。この研究により、核形成や伸長反応などの分子集合イベントにおける中間種の時間発展変化を実時間映像として捉え、メゾヒエラルキー物質の形成機構を明らかにすることができます。また、外部刺激に対する応答を分子レベルで映像化し、非平衡状態にあるメゾヒエラルキー物質のダイナミクスを解明することにも挑戦します。

A02メゾヒエラルキー光機能科学

A02-1メゾ光機能科学

生物の信号伝達では、わずかな刺激でも多くの信号分子が反応し、応答することができます。しかしながら、人工的な分子では、基本的に1回の刺激で1つの分子しか反応しないため、増幅応答系の構築は困難であります。本研究では、自在に制御できるメゾスケール特有の階層構造を用いることで光励起を駆動力とする大幅な増幅応答をめざします。具体的には、多励起子生成反応やアップコンバージョン、熱活性遅延蛍光等の多彩な光反応を駆使して、励起子を含む反応分子数およびエネルギーの増幅を実現します。また、有機材料だけでなく、無機材料(例えば、量子ドットや金属ナノクラスター)との融合による機能化も積極的に進めることで「力⇄光」および「光⇄光」の機能発現も進めます。

A02-2メゾ光計測

超分子構造は、励起子の長距離輸送など構造に特有の性質を示すことで注目されていますが、この超分子構造を更に階層的に集積した「メゾヒエラルキー構造」では、全く新しい光機能や特性が期待されます。本研究では、超微弱光を検出可能な単一分子分光と原子間力顕微鏡を使い、超分子構造からメゾヒエラルキー構造までの様々なスケールでの新しい機能を精査します。最終的な目標は、メゾヒエラルキー構造における一重項および三重項励起子の長距離輸送を決定するキーファクターを解明し、それを完全に制御することです。具体的には、原子間力顕微鏡を使い、A01〜A03が創出するメゾヒエラルキー構造の機械刺激に伴う光物理特性の変化を分子配列や励起子カップリングの観点から解明し、さらにメカノクロミック超分子ファイバーにおいて、機械的刺激による局所的な構造変化によって励起子輸送を任意に制御することを目指します。さらには、表面プラズモンを使って、励起子輸送制御を実現します。

A03メゾヒエラルキー構造ダイナミクス

A03-1メゾ強結合

メゾスケールで自在に形状変形が可能なソフトマテリアルの光科学的性質、特に励起子ダイナミクスを自在に操ることができれば、ナノからマイクロを繋ぐ新たなオプト・エレクトロニクスが拓かれ、エネルギー・環境分野などに多大なインパクトを与えることができます。しかし、現状ではメゾスケールにおける励起子ダイナミクスを解析し、それを制御する具体的な方法は存在しません。本研究では、研究代表者らが独自に開発した10 nmリモート励起法を利用し、メゾ構造の励起子ダイナミクスを紐解く計測技術を発展させます。さらには、共振器強結合を利用し、メゾ構造体の超長距離エネルギー移動や励起子ダイナミクスを操作することで特異な光物性の発現方法を発信します。これらの技術により、「メゾヒエラルキー光科学」の礎を世界に先駆けて確立します。

A03-2メゾメカノ機能材料

近年、pNオーダーの微小な力の可視化・定量評価法が求められています。しかし、既存の結晶性のメカノクロミック蛍光材料を、実用的なメカノセンサーとして応用するには限界があります。本研究では、幅がわずか1分子程度しかないメカノクロミック蛍光超分子ファイバーを開発し、メゾヒエラルキーの概念を導入することで、力に応じた蛍光特性の可逆線形変化、蛍光特性の多段階変化、および光応答性などを示す、メゾメカノ機能材料を創製することを目指します。原子間力顕微鏡と光ピンセットを併用し、開発されたメゾメカノ機能材料に分子レベルからメゾレベルで力を印加した際の応答性を詳細に精査します。また、空孔錯体を用いた構造解析法によって、分子集合構造変化と蛍光特性変化との相関関係を解明します。一方、領域内で開発されるメゾヒエラルキー物質が生じる力を可視化するための超分子メカノフォアも広く開発・提供することで、本領域の発展に貢献します。

B01メゾヒエラルキー理論

メゾヒエラルキー物質構築に挑戦する際の本質的な要素は、系のサイズが原子レベルから巨視的レベルへ増大するにつれて生じる現象を生み出す理論原理を発見することにあります。メゾスケールでは未知の現象が生じ、連結・競合する相互作用によって予期せぬ現象が生じる可能性があります。特に、メゾスケールにおける特異な構造ヒエラルキーが存在する場合、複数の特徴的時空間スケールにわたる物理化学現象を統一的に記述する理論的枠組みを開発することが大きな課題となっています。本研究では、このような階層的なメゾ現象に対応した信頼性の高い分子理論を構築することを目的としています。具体的には、分子-光強結合場に対する多体系量子モデル、および自己組織化や物理的外力応答に対する(粗視化)シミュレーション法を開発し、機能性材料の第一原理設計を行います。また、領域の合成研究者と協力して、メゾヒエラルキー物質の機能解明・設計指針導出を通じて、学理構築に貢献することを目指しています。